なぜ即売会で同人誌が入手出来ない事があるのか?

 「それが即売会というもの」と答えればそれまで疑問なのですが、納得が出来ない方の為に少し分かり易く説明したいと思います。また、これも今後書く文章の前提知識でもあるので、先に書いておくという意味合いもあります。以下、理解が出来た人は途中で読むのを止めて構いません。
 まず確認して貰いたいのは、サークルと受け手(一般参加者)は平等(対等)であるという点です。


コミケットは参加企画者としてのサークル、読み手、受け手としての一般参加者、そして準備会の三つを構成要素として行われるマンガ、アニメetcのファンの交流会です。コミケットを取り行うのは全ての参加者であるというのが基本的であり、内実を作っていくのも全参加者です。そして、参加者全員は全て平等である必要があります。
コミックマーケット74 コミケット・マニュアル -コミケットの理念と目的より抜粋
 「平等」である事が、同人誌を買えない事とどう繋がるのか。分かりやすい文章があります。Mapletown Networkで行われたやりとりで、「先に並んでいる人に同人誌を沢山買われて完売してしまうことがある、サークルの売り方に規制をかけて公平にするべきでは」と言った趣旨の書き込みに対し、議論がなされた中での岩田氏のレスです*1

Posted at 93/01/11 16:06:14 by T.IWATA
Subject: 公平って何ですか
 
いまいち良くわからない。
基本原則は、描き手(サークル)と読み手は対等だということ
でも公平では無い。片方は送るほう、もう片方は受け取るほうなのだから。
生産者と消費者が対等だということはあっても、公平だという論理は良くわからない。
何が公平なのかな?
欲しいものを欲しいだけ入手するという保証だけは、コミックマーケットの世界、同人誌の世界には存在していない。それが認められないのならば、来ない方が良いだろう。
はっきり言うが、コミックマーケットはデパートやディズニーランドでは無いのだよ。
 
「この本を買ってくれ」
「いやだ」
 
これはどこでも成り立つことだろう。
 
「この本を売ってくれ」
「いやだ」
 
これが成り立つのは対等な場合だけ。売り切れも冊数限定も少部数もみんなこれに入るだろう。普通の商売では対等な関係が無いから、消費者は王様なんて言われるけれど、コミックマーケット、同人誌では全く違うのだ。対等だから売りたくなければ売らなければ良いことだ。
 
サークルも参加者もアピールに反しないで自由にやれば良いことだ。それ以外の何が問題なのだろう。本当にその本が(その本だけが)欲しければ、そのサークルの売り子に応募しなさい、その本だけは買えるだろう。それ以外の一切が手に入らなくても満足しなければならないのは当然だ。それが同人誌というものだ。
 
T.IWATA(岩田次夫
Mapletown Network #40 同人誌即売会コミケット)より
 「売りたくなければ売らなくて良い」つまり、同人誌とは何かで言及した「販売」を自分の管理下で行うという事です。知り合いの為に販売しないで取っておく、関係者や親戚には売らない、クイズに正解出来たら売ります、というような対応は即売会ならでは*2でしょう。
 一方で受け手は「買わなくても良いし、興味がないなら手に取らなくても良い」のです。沢山の人に手に取って読んで貰いたいのに、手に取って貰えないサークルだっています。「完売しているなら、刷ってくれないか」と言うのは構わないでしょう、でも強制は出来ません。「うちは完売しなかった、買ってくれないか?」と強制される状況を想像してみてください。対等であるという意味が理解出来たでしょうか。
 さらに岩田氏の補足発言がありますので、以下に引用します。

Posted at 93/01/12 16:06:19 by T.IWATA
Subject: 本音の話
 
最近、コミックマーケットの形態が少しづつ変わってきていると思う。
文字通りの「一般参加者」が増えてきているのである。ちょうど本屋か何かに来るような感覚でコミックマーケットに来る人が増えてきているように思えてならない。
同人誌の面白さは、その入手方法までも含めた面白さだと私は思ってきた。これは、古くからやっている人だと感覚的にわかってくれるのでは無いか。共犯者のような感覚(うしろめたさ)が、つきものだったような気がする。最近は対面販売でも行っているような気がしてきてしまうのは、私だけだろうか。
 
買えないという声は良く聞くが、本当に欲しい本が何冊あって、そのうちの何冊が買えなかったのかは、聞いてみたいような気がする。15冊欲しい本があったが、5冊欠けたというようなことは、同人誌では当然だと私は思う。
本当に望んで得られなかったというのは、数サークルではないだろうか?
それへの対策を求められるのには、何か不条理な思いがする。そのようなサークルはたいていが何か明白な理由があるものだ。
 
A館にいるサークルの多くは在庫の恐怖と人手不足に悩みながらも本を刷り持ち込む前回、早々と売り切れになったA館一番奥の2サークルは大幅に部数を増やし、きちんと並びさえすれば買えるようになった。いつも完売一番乗りのサークルは部数を倍に増やし、注意して探せば前日に比較的に楽に買える状況にあった。特殊な本を除けば、大半の本は何とか入手できる状況にあったと思う(唯一、今回初参加でA館に入っていたあるサークルは、特別な事情により発行部数を制限せざるを得ない状況であったので、入手は困難かと思うが、それまでも何とかしろとは言えないだろう)。
 
T.IWATA(岩田次夫
Mapletown Network #40 同人誌即売会コミケット)より
 「A館いるサークル」の意味が分からない方は、大手サークルとでも理解しておいてください。この様なやりとりが、残っているだけでも1993年には既にされている事、そして何も回答に進展がない事には、不毛さを感じざるを得ません。

*1:なお、当該の文章は2008年6月現在でも閲覧可能。今となってはMapletown Networkは同人に限らず、貴重な情報の宝庫でしょう。

*2:イベントの運営に支障が出ない範囲、という条件はもちろんありますが。