サンクリカタログ原稿

SC41カタログ用の原稿も、ちょっと〆切りをやぶってしまいましたがなんとか上がり。
(入稿日の見当がついてしまうのは良くない。)
イベントの開催は10/5なのですが、夏コミの時期に売るという流れがあるため、〆切りがこの時期なんですよね。
  
SC36より連載しているこの同人誌紹介記事、大きな問題もなく連載を続けさせて貰えています。
紹介フォーマットや作業の流れも安定してきたので、もう少しだけ手を広げられればと構想中。
とはいえ、あまり無理しても続かないわけで。
ブログもそうですが、他の人がやってることや、出来ることをやっても全然面白くない。
自分に何が出来るのか、何をするのが自分は楽しいのか。自問自答の日々。

放置しすぎ。

お久しぶりです。
2、3行くらいでも頻繁に更新できればというコンセプトで復活したのですが、忙しくてなかなか出来てませんね。
(復活した時は、ちょっと遅めのGWを取れたくらいの時期だったのです。)
コメントなども殆ど確認できてません。すいません。
先日は、コミケ拡大集会に行ってきました。
近いうちに、その時に気になったことでも書ければいいな。

なぜ即売会で同人誌が入手出来ない事があるのか?

 「それが即売会というもの」と答えればそれまで疑問なのですが、納得が出来ない方の為に少し分かり易く説明したいと思います。また、これも今後書く文章の前提知識でもあるので、先に書いておくという意味合いもあります。以下、理解が出来た人は途中で読むのを止めて構いません。
 まず確認して貰いたいのは、サークルと受け手(一般参加者)は平等(対等)であるという点です。


コミケットは参加企画者としてのサークル、読み手、受け手としての一般参加者、そして準備会の三つを構成要素として行われるマンガ、アニメetcのファンの交流会です。コミケットを取り行うのは全ての参加者であるというのが基本的であり、内実を作っていくのも全参加者です。そして、参加者全員は全て平等である必要があります。
コミックマーケット74 コミケット・マニュアル -コミケットの理念と目的より抜粋
 「平等」である事が、同人誌を買えない事とどう繋がるのか。分かりやすい文章があります。Mapletown Networkで行われたやりとりで、「先に並んでいる人に同人誌を沢山買われて完売してしまうことがある、サークルの売り方に規制をかけて公平にするべきでは」と言った趣旨の書き込みに対し、議論がなされた中での岩田氏のレスです*1

Posted at 93/01/11 16:06:14 by T.IWATA
Subject: 公平って何ですか
 
いまいち良くわからない。
基本原則は、描き手(サークル)と読み手は対等だということ
でも公平では無い。片方は送るほう、もう片方は受け取るほうなのだから。
生産者と消費者が対等だということはあっても、公平だという論理は良くわからない。
何が公平なのかな?
欲しいものを欲しいだけ入手するという保証だけは、コミックマーケットの世界、同人誌の世界には存在していない。それが認められないのならば、来ない方が良いだろう。
はっきり言うが、コミックマーケットはデパートやディズニーランドでは無いのだよ。
 
「この本を買ってくれ」
「いやだ」
 
これはどこでも成り立つことだろう。
 
「この本を売ってくれ」
「いやだ」
 
これが成り立つのは対等な場合だけ。売り切れも冊数限定も少部数もみんなこれに入るだろう。普通の商売では対等な関係が無いから、消費者は王様なんて言われるけれど、コミックマーケット、同人誌では全く違うのだ。対等だから売りたくなければ売らなければ良いことだ。
 
サークルも参加者もアピールに反しないで自由にやれば良いことだ。それ以外の何が問題なのだろう。本当にその本が(その本だけが)欲しければ、そのサークルの売り子に応募しなさい、その本だけは買えるだろう。それ以外の一切が手に入らなくても満足しなければならないのは当然だ。それが同人誌というものだ。
 
T.IWATA(岩田次夫
Mapletown Network #40 同人誌即売会コミケット)より
 「売りたくなければ売らなくて良い」つまり、同人誌とは何かで言及した「販売」を自分の管理下で行うという事です。知り合いの為に販売しないで取っておく、関係者や親戚には売らない、クイズに正解出来たら売ります、というような対応は即売会ならでは*2でしょう。
 一方で受け手は「買わなくても良いし、興味がないなら手に取らなくても良い」のです。沢山の人に手に取って読んで貰いたいのに、手に取って貰えないサークルだっています。「完売しているなら、刷ってくれないか」と言うのは構わないでしょう、でも強制は出来ません。「うちは完売しなかった、買ってくれないか?」と強制される状況を想像してみてください。対等であるという意味が理解出来たでしょうか。
 さらに岩田氏の補足発言がありますので、以下に引用します。

Posted at 93/01/12 16:06:19 by T.IWATA
Subject: 本音の話
 
最近、コミックマーケットの形態が少しづつ変わってきていると思う。
文字通りの「一般参加者」が増えてきているのである。ちょうど本屋か何かに来るような感覚でコミックマーケットに来る人が増えてきているように思えてならない。
同人誌の面白さは、その入手方法までも含めた面白さだと私は思ってきた。これは、古くからやっている人だと感覚的にわかってくれるのでは無いか。共犯者のような感覚(うしろめたさ)が、つきものだったような気がする。最近は対面販売でも行っているような気がしてきてしまうのは、私だけだろうか。
 
買えないという声は良く聞くが、本当に欲しい本が何冊あって、そのうちの何冊が買えなかったのかは、聞いてみたいような気がする。15冊欲しい本があったが、5冊欠けたというようなことは、同人誌では当然だと私は思う。
本当に望んで得られなかったというのは、数サークルではないだろうか?
それへの対策を求められるのには、何か不条理な思いがする。そのようなサークルはたいていが何か明白な理由があるものだ。
 
A館にいるサークルの多くは在庫の恐怖と人手不足に悩みながらも本を刷り持ち込む前回、早々と売り切れになったA館一番奥の2サークルは大幅に部数を増やし、きちんと並びさえすれば買えるようになった。いつも完売一番乗りのサークルは部数を倍に増やし、注意して探せば前日に比較的に楽に買える状況にあった。特殊な本を除けば、大半の本は何とか入手できる状況にあったと思う(唯一、今回初参加でA館に入っていたあるサークルは、特別な事情により発行部数を制限せざるを得ない状況であったので、入手は困難かと思うが、それまでも何とかしろとは言えないだろう)。
 
T.IWATA(岩田次夫
Mapletown Network #40 同人誌即売会コミケット)より
 「A館いるサークル」の意味が分からない方は、大手サークルとでも理解しておいてください。この様なやりとりが、残っているだけでも1993年には既にされている事、そして何も回答に進展がない事には、不毛さを感じざるを得ません。

*1:なお、当該の文章は2008年6月現在でも閲覧可能。今となってはMapletown Networkは同人に限らず、貴重な情報の宝庫でしょう。

*2:イベントの運営に支障が出ない範囲、という条件はもちろんありますが。

戦後エロマンガ史

 アックスに連載していた米沢さんの「戦後エロマンガ史」。91年の資料にも使わせて貰ったのでふと思い出しましたが、そろそろ単行本がでる筈なんですよ。アックス最新号の62号では「発売が大幅に遅れており申し訳ございません。目下レイアウト作業進め中。五月にはいくらなんでも刊行したいです…。」とありましたが今現在、未刊行の模様。
 情報も全く出てこないので、もう少し遅れるのかもしれませんが、6月末発売のアックス63号の頃には出てると良いなあ。

『Get Wild '91』1991年 - 書店摘発〜表面張力〜幕張追放

 1991年に起きたいくつかの事件について、纏めておきます。*1

事件前夜、「有害」コミック騒動の始まり。

 90年8月。マンガ誌における性表現における性表現のコマ数を調べ、「女性の人格を無視した男性中心の描写」が多いとして批判した。それを週刊誌が興味本位に扱い、9月には「朝日新聞」に「貧しい漫画が多すぎる」という社説が掲載された。こうしたマスコミ報道に乗る形で、和歌山県田辺市では9月頃より、マンガ追放運動が起こり、やがて「子供を守る親の会」が首相官邸に訪れ「性描写の過激なコミック本やポルノ雑誌の出版や販売に法的規制を」と訴える。──いわゆる「有害」コミック騒動である。
「漫画同人誌エトセトラ'82-'98」阿島俊(久保書店) P198より
 地方から火がついたこの論争は、全国に広がりを見せ、大規模な漫画に対する弾圧へとエスカレートしていきました。今回は本題でない為、簡単な触りだけ。詳しくはwebで検索してもある程度の資料は見つかります。また、紙媒体の有用な資料として『「有害」コミック問題を考える』(創出版)をお薦めしておきます。

主要な出来事(〜1991/1)

 1988-1989 宮崎事件 (東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)
 1990/6 仏教系新宗教団体機関誌に「子供を蝕む性交マンガ雑誌」「ドギツイ描写、性をクスグルセリフやタイトル─これが子供向けに堂々と書店に並ぶ現実」といったキャンペーンが展開。
 1990/8/9 「紀州新報」にコミック本批判の投書が掲載、後の和歌山県田辺市の運動の発端。
 1990/8/23 東京都生活文化局婦人計画課が「性の商品化に関する研究」報告書を発表。
 1990/9/4 朝日新聞、「貧しい漫画が多すぎる」と題した社説を掲載。
 1990/10/12 「ヤングサンデー」に連載中だった人気作「ANGEL」(遊人)が休載。
 1991/1 雑協加盟出版社「成年コミック」マークの表示基準を決定。

 91年1月には、今ではお馴染みの「成年コミック」マークが作成され、翌月2月には適用される事になります。こうした出版社の自主規制の決定という大きな変化があったものの、規制推進側の動きは止まりませんでした。

書店摘発事件へ

 そういった「有害」コミック騒動の中、1991/2/22には都内の有力書店が3店が摘発される事件が起きます。書店が委託販売を行っていた同人誌が「わいせつ図画」とされ「わいせつ図画販売目的所持容疑」で書店員が送検されたのです。以下は当時の新聞(読売)より。
わいせつ漫画本を販売 有名書店を摘発/警視庁

 警視庁保安一課と、神田署、麹町署は二十五日までに、わいせつな漫画本を販売していた東京・神田の有名書店など三書店の店長ら五人をわいせつ図画販売目的所持容疑で東京地検へ身柄送検、三十三種類五千三十九冊を押収した。
 逮捕されたのは、千代田区神田神保町一の二一、「書泉ブックマート」店長、K(53)と店員二人、同町一の九、「コミック高岡」店長、H(57)、新宿区新宿三の三五の一、「まんがの森」新宿店店長、M(38)の五容疑者。調べによると、三店では、昨年三月ごろから、露骨な性描写のある漫画本を一冊六百円から千円で販売していた。
 1991.02.25 読売新聞 東京夕刊 夕社会 19頁
※実名部分をイニシャルに改変してあります。

 これまで標的に全くなっていなかった自主流通出版物、同人誌が対象となった事は特筆に値すると言えます。「この種の漫画本の摘発は全国で初めてである」という記者発表の通り、例を見ない事でした。事件の後、他の書店に対しても家宅捜査が行われ、さらに多くの同人誌が対象になっていきます。
 一連の事件で書類送検となったのは、作者、発行者、印刷所、書店員など広範に渡り、拘留・逮捕されたのは74人(逮捕7人・拘留67人)にも及びました。押収されたのは同人誌22,078冊、原画950枚、フィルム205枚。続けて3/11付で以下の記事が掲載されます。
わいせつ漫画本事件 東京・広島の印刷会社2社を家宅捜索/警視庁
 都内の有名書店などで、わいせつな漫画本が販売されていた事件を捜査している警視庁保安一課と神田、麹町署は十一日までに、漫画本の編集に当たっていた二人を、わいせつ図画販売目的所持容疑で東京地検へ身柄送検した。さらに二人の供述から印刷、製本を担当していた広島市内などの印刷会社二社を、同容疑で家宅捜索、近く両社の社長を書類送検する。
 身柄送検されたのは、神奈川県座間市栗原、無職I(22)、東京都武蔵野市中町、調理師Y(24)の二容疑者。家宅捜索を受けたのは、広島市東区牛田新町、金沢印刷と東京都文京区後楽、東京文芸出版。
 調べによると、I容疑者は、自分が編集したわいせつな漫画本十五種類の印刷を金沢印刷に依頼、合計六万千八百五十冊を出版し、東京都千代田区神田神保町の「書泉ブックマート」など三書店で委託販売してもらった疑い。これまでに二万五千冊を販売、一千万円の売り上げを得ていた。
 またY容疑者は、同じような方法で、東京文芸出版に印刷を依頼し、一種類二千五百冊を出版し、新宿区新宿三丁目の漫画専門書店で販売した疑い。
 1991.03.11 読売新聞 東京夕刊 夕社会 23頁
※実名部分をイニシャルに改変しています。
 特記事項として、成年向けのエロ同人誌は局部が無修正のままで流通しており、こういった事件に発展した時に問題になりやすい状態だったという事を挙げておきます。この事件以降、同人誌には必ず修正が入るようになり、以前の同人誌は「規制前の」と頭につけて呼ばれたりする事になります。ショップで取り扱うにもリスクが高いため、中古ショップでお目にかかる事はほぼありません。
 多くのサークルの同人誌が問題とされていきましたが、その中で警察が名指ししたサークルがありました。「MINIES CLUB」、上記I容疑者(PN:伊藤紅美)が代表を務めるサークルです。

「MINIES CLUB」と「表面張力」

 MINIES CLUBはサークルに所属する描き手が作品を作ってはおらず、人気作家の旧作をまとめたり、原稿を集めてアンソロジー集として発表したりと、編集をメインに活動しているサークルでした。作家に原稿料を払って描かせていたりと、ミニ出版社のような活動をしていたようです。作家や会員に対して金銭絡みのトラブルも少なからずあったと聞きますが、決定的となったのは「表面張力」事件でしょう。
 「表面張力」は「くりいむレモンシリーズ」(1984年〜)のキャラクターデザインで人気を博していた富本たつや(真行寺たつや)氏が1988年に発行した個人誌。「漫画の手帖 29号」によれば、当初800部刷られた「表面張力」は再販増刷・通販の要望が多く寄せられ、忙しい富本氏は「MINIES CLUB」に増刷と販売を委託。再版(1000部)を販売したところまでは、きちんと売上も支払われたようですが、その後MINIES CLUBは無許可で再々版(6000部)を増刷・販売を行い、後にその事態に気がついた富本氏とトラブルに発展していきます。

(前述分略)「この春おこなわれたコミックマーケットで、富本さんに何の断わりもなく『表面張力』名でサークル参加し、スタッフの厳重な注意にもかかわらず『表面張力』を展示販売していた」「そのサークルの名前はMINIES CLUB。代表者は女性で美少女エロ系の商業誌などを通じて、通販や会員の募集を大々的に行っております。」(以上月刊阿素湖だより4/1号〜6/1号・早波慧氏の“「表面張力」その後”より抜粋)
漫画の手帖 29号」P16 噂の顛末 - 『表面張力』増刷にともなうトラブルの真相は? より
 上記のような大小さまざまトラブルを抱えたMINIES CLUBは即売会から撤退します。片方の被害者である富本氏は、この騒動を起因に同人活動を長期間休止。発行予定だった「表面張力・2」は幻と消えることとなってしまいました。
 事実上、即売会から閉め出された形になったMINIES CLUBは、その後も活動を続けていきました。制作した同人誌を精力的に書店で委託販売する一方で、グループを会社組織化し、非合法のシースルービデオやビニ本の制作販売を手がけていました。暴力団関係の資金源となっているのではという疑惑*2もあり、程なくしてMINIES CLUBは当局に目をつけられる事になります。1990年1月頃、保安一課がビデオを押収すべくMINIES CLUBに踏み込んだところ、そこにあったMINIES CLUBが編集する美少女同人誌が目に留まったようです。これが91年2月の書店の同人誌摘発事件のきっかけになったと言われています。
 こういった流れもあり、警視庁には「同人誌」の第一印象が悪かったの言うまでもありません。発行していた同人誌の中には、奥付が無いものもあった様で、摘発事件の時にも「発行元がはっきりしていない」と指摘がありました。「奥付がない=書けないような裏がある」という推測をされる、という考えもこの流れを踏まえれば不思議な事ではありません。

幕張から晴海へ……

 宮崎事件により1989年から続くオタクバッシング、「有害」コミック騒動によるマンガへの弾圧。そして摘発事件。「同人誌=ワイセツ図画」といった偏見さえ生まれてしまう中、91年3月末、同人界に追い討ちをかけるような出来事が起きます。コミケ40(1991年8月)の開催を予定していた会場・幕張メッセから、コミケット準備会が一方的なキャンセルを言い渡されるという事件です。
 1991年3月頃(正確な日付は不明)、千葉西署(メッセ管轄)に、とある個人が「コミケで買った」というエロ同人誌を持ち込みます。主張としては、「コミケでこんな物が売られている、取り締まって欲しい」と言ったものだったようです。タイミング的としては書店摘発に乗じた嫌がらせのような印象は否めませんが、ともあれ問題を認識した千葉西署はそれを受け、準備会と幕張メッセに事情聴取を行います。
 その結果として幕張メッセは、既にC40告知、サークル申込が済んだ状態であったにも関わらず、トラブルのあるイベントには貸さないという結論を出す事になりました。
 当初メッセは、経済効果も期待出来るコミケを追い出すつもりはなかったようですが、千葉(とある保守系議員の強い意向とも)側から圧力がかかり、このような結果となったとも聞きます。こうして新天地として期待された幕張メッセでのコミケは、37から39までのわずか3回で終了する事になりました。この件で、幕張メッセの信用は地に落ちたと言っても過言ではないでしょう*3
 メッセに呼び出され、キャンセルを言い渡された米澤代表(当時)は、メッセに古巣である晴海国際展示場への紹介を依頼。晴海側は当初渋ったものの、見本誌チェックの強化やサークルへの表現規制のアピールなどを条件に最終的に開催許可を出します。
(前略)これについては次のような条件が付加されました。
 夏コミの会場に於て、「ワイセツ図画」と見なされる同人誌が1冊でも持ち込まれ、売られることが無いように万全の対応策をとるというものです。
 ・印刷所の協力でチェック修正を行う。
 ・サークルに通達し、自主規制をしてもらうよう指導する。
 ・当日厳重管理体制をしいて販売物をチェックする。
 ──といった内容です。当日「現行犯逮捕があった場合即刻中止、後日発覚「事件」となった場合冬コミ中止、以後一切コミケットには会場を貸さない。それは、何かあった時には、コミケットがなくなってしまうことを意味しています。晴海以外で一万以上のサークル、十万以上の一般を収容できる会場はないのですから。
コミックマーケット20周年記念資料集』P254 C40コミケットアピールより抜粋
 会場、日時を変更しながらも、コミケットは何とか場を維持し、生き延びる事を選択しました。1つでもわいせつ図画の頒布があれば開催中止、巨大化したコミケに残された会場はなく、C40は異様な緊張感に包まれた中での開催となりました。この頃より女性向けは1日目、問題とされる可能性が高い男性向けは2日目といった日程が確立していきます。*4この事件で注目すべきは、間接的な影響があったにせよ、たった1人の個人の行動によって、コミケが開催中止寸前まで追い込まれたという点に尽きるでしょう。
 最後にコミケット40カタログ「代表のごあいさつ」よりの引用を持って本稿を締めます。

 コミケットには見せかけの巨大さと華やかさがあります。それが何処かで永遠を保証するような幻想を抱かせるかもしれません。しかし原点に立ち戻って考えるならコミケットには何の力もありません。コミケットは常に危うい、それ故に魅力的な空間なのです。安定と保守はコミケットには無縁なものかもしれません。それでも、コミケットは続けていこうとする意志の力が寄り集まることによって、永遠を求めていくことになるはずです。それがコミケットに参加するということだと考えます。
 コミックマーケット20周年記念資料集』P256 より

【参考文献】
 『「有害」コミック問題を考える 置きざりにされた「性表現」論議創出版
 『コミックマーケット20周年記念資料集』コミックマーケット準備会
 『コミックマーケット30'sファイル』コミックマーケット準備会/青林工藝舎
 『漫画同人誌エトセトラ'82-'98』阿島俊久保書店
 『アックス 52号』青林工藝舎
   - P264-P267 「戦後エロマンガ史 第40回」米沢嘉博
 『漫画の手帖 33号』漫画の手帖事務局
 『漫画の手帖 29号』漫画の手帖事務局
 『DO-PE VOL.7 1991秋号』あまとりあ社

【参考URL】
 同人関係の事件/1991年の書泉ブックマート、高岡書店、まんがの森の摘発 (ARTIFACT ―人工事実―)
 「キャプテン翼」以降の女性アニパロ史 (同人誌生活文化総合研究所)
 『萌え』という言葉を隠れ蓑にした現在の危険性 (三毛猫が出かけた こみけの話)
 90-91年「有害コミック」問題は、極右新興宗教「念法真教」が起こした。 (カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記)
 AAAonWWW-[doujin] (AAA on WWW)
 ヨミダス文書館 (YOMIURI ONLINE)
 有害コミック運動 - Wikipedia
 コミックマーケット - Wikipedia

*1:筆者は事件当時、コミケには参加していませんでした。事実誤認等ございましたらコメント・トラックバックにてご指摘ください

*2:事実その通りという話だった、という話もありましたが確証が取れない為、疑惑のままにしておきます。

*3:幕張メッセコミケが開催されない理由としてもう1つ挙げられるのは、千葉県青少年健全育成条例では東京と違い、有害図書の包括指定がなされるという点です。本記事では脱線になりますので深くは触れません。

*4:C71では女性向けサークルの修正指定が、男性向けより多くなるという現象が起きています。

同人中二病

※ネタです。

基本的な語義

同人暦2年程度の屁理屈で同人を否定し、結果何の行動も起こさなくなる病。特に一般参加者に多く見られる。重度の患者は勝手な思い込みから同人の仁義に反した行動を引き起こすため、早めのケアが必要。闘病患者としてid:kokkuriが有名。(未完治)

症例

  1. 「スタッフにだけはなりたくねーよなぁ」
  2. 壁になったサークルを「売れる前から知っている」「あのサークルは俺が育てた」とムキになる。
  3. 「大手サークルはちゃんと税金を払え」
  4. 同人になる運命の相方探しを始めたりする。
  5. イベントで激昂「一般だって参加者なんだぞ」。
  6. コミケにある程度詳しくなると「スタッフって汚いよな」と急に言い出す。
  7. 壁サークルに対して評価が辛い。
  8. 「柴田手前同人なめてんのか」とか言い出す。
  9. 「シャッター大手なんてもう卒業じゃん?」って言ってシャッター脇辺りに軟着陸する。
  10. 豪華ゲストのオフセ本を企画してコミケに申し込むが、当日スペースにあるのはペーパーだけ。
  11. 企業ブースに行かなくなった事に対するすごい自慢。
  12. 徹夜・転売問題に積極的になり、即絶望。
  13. 急に竜騎士07武内崇の絵が上手い・上手くないを語りだす。
  14. 同人卒業は何歳までか熱論になる。
  15. これまで自分が買ってきたエロ同人誌が物凄く恥ずかしくなり、急に処分しだす。
  16. ちょっとしたウケ狙いでドラえもんアンパンマンのパロディ本を買う。
  17. 自分が買ったエロ同人誌を友達に見られたくない。
  18. とらのあなを無根拠に嫌う。
  19. とりあえず同人総研辺りを批判しておく
  20. 同人ゴロというキーワードが気になって調べる
  21. 何か問題が起きたらとりあえず「米沢さんや岩田さんが生きていればこんな事にはならなかったでしょうね」とか言ってみる

「同人誌における商業主義」問題

 「同人誌における商業主義」の問題について触れたいと思います。この問題の解決は非常に難しいのですが、理解を深めることは出来ます。今回はコミックマーケット46(1994年夏)のカタログ内の記事、『座談会「同人誌における商業主義について」』*1を元に話を進めていきます。
 この問題を考える上で必読の資料の一つと言える件の記事は「コミケットの巨大化にともない登場した同人誌系商業誌や商業イベント。それらが同人誌に与える影響を、イベントをプロデュースする立場の彼らがどうとらえているのか。」というテーマで、そうそうたる面子が語る内容。長い文章にしても読まない人が多いという判断で短く纏めましたが、原典は是非読んで貰いたいです。※各人のプロフィールは94年当時のものです。

岩田*2:先に結論めいたことを言わせてもらうと、同人誌とは商業誌、又は商業出版のシステムか疎外された存在だった。つまり、本当は自分の創作物を商業出版という形で世に問いたかったけれど、受け入れられなかった訳です。そうするとそこに二重の感情が生まれます。一つは疎外されてくやしいというような憎悪に近い感情。もう一つはそれなら自分達でそうじゃないものを作ろうという発想。この両面の考えから、同人誌という物は巨大化した。ただ、それが商業主義化したといわれても、どちらも「はじめに商業主義ありき」から出発している以上、同類だと。逆に、比較で捉えている限り何も問題は解決しないんじゃないかな。
大西*3:例えば1984年に発行された「コミケット年鑑」でのコミケット代表の米沢の回顧録によると、マンガ大会からの疎外をどう扱うかが出てきて、少なくともコミケットのスタート時点では前向きな発想だったと思うんです。同人誌の売買をコミケットの第一目標にしているんですよね。ようは最初の設立から商業主義なんですよ。即売会(コミケット)というものは。

 ここでの要点は商業誌・商業出版のカウンターとしての同人誌(あるいはコミケット)が生まれた一方で、商業主義へのカウンターではない事。混同しやすい部分なのではと思います。

筆谷*4:さっきから疎外とか云々って言ってるけど、商業主義の善し悪しは別でしょ。私達にとっての問題は作品の質じゃないの?商業主義になったと言ってる割にクオリティの低い作品ばっか増えてきたのが一番頭にきている訳でさ。
中村*5:そういう本が売れてるから文句があるんでしょ。
筆谷:読者が悪いんだからしょうが無いじゃない。
(一同):オオーーーーーッ
里見*6:ちょっとオブラートに包んだ言い方をすれば、我々読者という立場からすれば、作者に対して非常に甘いですよね。特に同人誌において。ただ、現状のマーケットが作品の質よりも。「○○さんの本が欲しい」という欲求が先にきちゃうような状態だと、共犯関係というより、読者の方が悪いとしか言い様が無いですかね。
岩田:でも甘いから同人誌即売会というものは成り立つんですよ。甘くなかったら、商業誌並みに読者が厳しかったら、コミケットは未だに大田区産業会館(初期のコミケット会場、約300スペース)でやってますよ。(笑)

 同人誌の読者(買い手)は作者に対して甘い。この原則が同人誌のマーケットを拡大させていくわけですが、逆説的に言えば質の悪い作品でも市場が成立してしまう、さらに言うと質の悪い作品が生まれやすい土壌にさえなりうるという事です。
 商業主義として批判される典型的なパターンの1つではありますが、読者の甘さや、好きな作家(またはジャンル)の作品を手にしたいという欲求を逆手に取れば、作品のクオリティ以上の売上を延ばす事も可能でしょう。
 この問題についてはまだ書かなければいけない事はあるのですが、ダラダラと長くなってしまうので、今回はここで区切ります(気が向いた時に続きを書きます)。最後に岩田氏の文章を添えておきます。

 別に商業主義が悪いと言うような単純な発想に私は立たない、この社会に生きている限り商業主義から逃れられることはあり得ないのだし、それの善悪を問うことは不可能だと思うのだから。商業主義を否定するなら、山奥に隠棲するしか道は無いだろう。しかし、商業主義的な行為を自らが行うか、それに安易に身を任せるかどうかと言うことは、別の話だ。そうした行為は全く自己の判断だろうし、高いレベルの責任が生ずると私は思っている。
「同人誌バカ一代」P179より

*1:手元にお持ちの方は1日目と2日目のサークルカットの間あたりを探してください。また、国会図書館にも献本されてありますので、そちらでも読む事が出来ます。

*2:岩田次夫コミケットスタッフ)…コミケットスタッフの中興の祖と言われる。イワエモンのキャラクターで有名。

*3:大西通博(コミケット記録班)…コミケットをメディアとして語れる数少ない人物。メディア評論家でもある。

*4:筆谷芳行コミケットカタログ編集長)…10年前からカタログ編集長、本業は青年漫画誌編集者。

*5:中村公彦COMITIA実行委員会代表)…東京で創作オンリーのCOMITIAを主催。

*6:里見直紀(コミケット配置担当)…コミケットのサークル配置総指揮の重責を担う。